星空の時間2010/05/30 13:25

仕事帰りは暗い夜道となる。星空を見上げながら、ぶらぶらと歩くのは結構楽しいもので、田舎暮らしも悪くはない。それにしても、今とは比べものにならないほどの夥しい星たちの中から特徴的なパターンを抽出して星座を作り上げてきた人間の想像力には感心してしまう。天空の神話の世界が巨大なスクリーンに投影されているように見えるが、実は宇宙の深みに分布する星や星雲の光によるものだということは、現代の人間ならば皆知っていることだ。たとえば冬の代表的な星座であるオリオン座。右肩にあたるベテルギウスは地球から約500光年、腰のあたりに位置するアラニウムは1500~1600光年離れた空間から発せられた光である。

ところで、特殊相対性理論によると、自分たちから見て相対的な速度vで動いているものが感じる時間 Δt[動いているもの] は、自分たちが感じる時間 Δt[自分たちの時間] に対して以下の式で表される。

Δt[動いているもの]=Δt[自分たちの時間]・(1-v²/c²)¹⋰²

ここで、cは真空中の光の速度である。星から発せられた光は、当然であるが、宇宙空間を光速cで飛んでくる。上の式の速度vに光速cを入れてやると、Δt[動いているもの]は0となる。すなわち、僕たちから見れば500年とか1500年という時間をかけてやって来たと見える光自体は、実はほんのちょっとも時間を感じていない。言ってみれば、光が発せられた瞬間と、僕たちの目に入った瞬間は、光からすれば同じ瞬間なのだ。だから、星空を見ているとき、僕たちは、宇宙のありとあらゆる過去の時間と作用していることになる。なんだか、宇宙とは創成から今までが混然と一体化した有機体にも思えてくる。そんなことを考えながら星空を眺めているのも結構楽しいものだ。

さて、地球から100光年よりも近いところには、1000以上の星があるらしい。見えるか見えないかという問題は別として、年齢相当の距離だけ離れた星はどこかにありそうだ。生まれ年のワインでも注ぎながら、「君の生まれた年の光をプレゼントするよ」とささやいて星を指させば、ずいぶん良い雰囲気になれるかしらん、などと、結局は俗っぽいことを考えてしまうのである。