86話. 地球影と初日の出2013/01/06 16:42

地球影と富士山と月
一年の最初に昇る太陽は世界中でありがたがられているものだと思っていたが、どうもそうではないらしい。初日の出にここまで思い入れを持つのは、日本人特有の感覚だそうだ。日本の太陽神は天照大御神。ときには天の岩戸に隠れてしまったりする気難しさも持つ女神だからこそ、とりあえず一年最初の日の出はありがたく感じてしまうのかもしれない。

今年の元旦は、早起きをして近くの丘陵に初日の出を見に行ってきた。朝の寒気の中、白い息を吐きながら丘を昇り詰めると東に湘南の海が見える。東の空はすでに薄赤くなり始めている。水平線には影絵のように雲が流れていている。海とは逆方向、西の方を見れば、この場所よりももう少し高い丘が連なっていて、その上の空は、低いところから青く暗い部分、それを取り囲む薄桃色のアーチ、さらに上にはすでに明るくなり始めた薄い青という順番でグラデーションを放っている。青く暗いアーチは地球影 (Earth shadow) だ。地球の大気に映し出された地球自身の影である。ちょうど、この地球影の中に雪の富士山が白く光っている。大気に比べて雪が散乱する光の量が桁ちがいに大きいから、富士山は白く光って見えるのだろう。地球影を取り囲む薄桃色のアーチはヴィーナスベルトと呼ばれる。大気を長く通過することで、レーリー散乱で青い光が取り除かれて残った赤い光、すなわち朝焼けの光が大気に映っているのだ。
日の出が近づくにつれ、地球影とそれを取り囲むヴィーナスベルトは低い位置に落ちていく。ヴィーナスベルトがちょうど富士山のあたりまで降りてくれば茜富士の登場だ。やがて日の出のころ、地球影とヴィーナスベルトは西の丘の向こうに姿を消した。
考えてみればずいぶんと壮大な光のショーだし、色合いもなんだか目出度いのである。

さて、肝心の初日の出。水平線近くを帯状に流れる雲のわずかな隙間から一瞬、まぶしい光を放つと、すぐにまた雲に隠れてしまった。空は晴れているのに、なんてこった。やはり、天照大御神は、女神だけあってなかなか一筋縄ではいかないようだ。まあ、ほんの一瞬でも神々しい光を拝むことができたのだから、良しとするか。