56話. フォト(Photo) 光か写真か2011/08/20 21:52

光の科学や技術に関わる世界にいる僕たちは、フォト(photo)といえばフォトン(photon:光子:光の粒)とかフォトニクス(photonics:光子を用いる技術)とかにつながる「光」を意味する言葉として受け取るだろう。しかし、光とは関係の無い世界の人に「フォトって何のことだと思う?」と聞くと、ほぼ間違いなく「それって写真のことに決まっているでしょ」という答えが返ってくる。そういわれればそうかも・・・。僕自身、どっちが正しいのか実は正確なことを知らないことに気がついた。

さっそくロングマンの英英辞典を調べてみると、photo単体 は写真や写真を撮ること、接頭語となるphoto-は、(1)光に関係すること(2)写真に関係すること、などとある。科学技術関連の辞典などでは、photoは光と記述されることが多いようだ。たぶん、もともとは写真はフォトグラフ(photograph)が正式な英語名で、それが短縮されてフォトといわれるようになったのだろうと、言葉の素人の僕でも容易に推察できる。

実際にはphotoはギリシア語で光を意味する言葉だったようだ。-graphというのが「~を描く(記録する)装置」とか「~を描いたもの」の意味でこれもギリシア語からきているらしい。 だから、写真:photographは、「光を描く装置」とか「光を描いたもの」という意味となる。たしかに、写真は一瞬の光を切り取って画像を描いたものだ。そこに、人間の想像力が加わることで、その情報量は信じられないほど膨らむ。なつかしい思い出にもなるし、購買欲をあおる広告塔にもなる。冷徹に事実をつきつける証拠にもなるし、科学を飛躍させる原動力にもなる。男であれば、たった一枚の妖しい写真が妙な想像力をたくましく育てるトリガーになることは経験済だろう。

なにはともあれ、フォトが光を表す言葉であるという解釈は正しかった。そして、もともとはフォトグラフからきてはいるのだが、現代となっては、フォト=写真という解釈も正しいことがわかった。それはそれとして、フォトグラフ=光を描いたもの、という語源。写真というものが、単なる技術を超越した、特別な存在に思えてくる。アナログ(銀塩フイルム)からデジタル(半導体撮像素子+コンピュータ+ディスプレイ)に移り変わったとはいえ、光を描くという本質は何も変わっていない。

僕は、明かりと並んで写真は光技術の金字塔のひとつだと思っている。そして、僕自身は光を生業にしているけれども、写真を超える何かをやらかすことは、到底、難しそうだと感じてしまうのである。まあ、自暴自棄になっても仕方が無いので、焼酎のロックで朦朧とした頭で、アインシュタインのベロ出し写真を眺め、まあなんとかなるだろうさ、と、なんともならない時間を過ごしているのである。