52話. ほんのり夕焼け。2011/07/03 21:31

今日、新しく買ったスポーツグラスをはじめてかけてジョギングに出た。7月初旬の午後4時半といえば、まだまだ日が高く、真昼のコンディションである。にもかかわらず、景色がすでにほんのりと夕焼け色だ。どうも、スポーツグラスのせいらしい。このグラスのレンズは、アンバー色。すなわち、波長600nmくらいの赤みの色をもっとも良く通すもののようだ。もちろん、他の色の透過率も0ではないから、木の緑もはっきりと見える。全体的に赤みを帯びた景色に見えると言った感じだ。走りながらグラスを外してみると、たしかに世の中はまだ夕焼けにはなっていなくって、普通の午後の景色である。というか、しばらくアンバー色を見ていたせいか、心なし補色の緑がかった景色だ。この色のレンズで夕焼けを眺めたらどんなふうに見えるのだろうかということが気になって、無理して少し長めに走ったのだが、残念ながら本当の夕焼けの時間になると、雲がかかってきてしまい、確かめることができなかった。

そういえば、一時、アンバー色のレンズのスキーゴーグルを使っていたことがある。これが、なかなか不思議な感覚でおもしろかった。もう、絶望的に暗く曇った天気のもとでも、このゴーグルをかけると、薄日が差して明るいゲレンデにいるような錯覚を覚えるのだ。ゴーグルだから、かなりの量の光をカットしていて、目に入る光の量は外光よりも少ないはずだ。なのに、ゴーグルをつけていれば明るく感じ、ゴーグルを外してみれば、気が滅入るどよんとした曇りの世界が広がる。機能としては、青や緑をより多くカットし、赤を少し高めの透過率にしてあるはずだ。

僕たちは、夕焼けや、薄い雲を通った日の光は赤を帯びた色になることを経験的に刷り込まれている。だから、赤みがかった景色を見ると、反射的に太陽の存在を感じて、そしてここは明るい世界だと思い込んでしまうのだろう。一方、青や緑の光量がもう少し増えて、赤みが消えると、トータルの光量は増えているはずなのに、僕らの脳は暗い曇りの世界を勝手に作り出してしまうのだ。絶対光量よりも色のバランスが重要なのだ。人間の感覚なんて、けっこう大雑把なもので、簡単にだまされるようにできているのだ。まあ、だから人生いろいろと面白いことが起きるのだと思えば、スタートレックのミスタースポックのように、すべてが論理的でだまされることなどけっして無いなんていうヴァルカン星人と比べれば、すぐにだまされて間違えだらけの地球人でよかったなあ、と、しみじみとワインをすすっているのである。