78話. 光学とOpticsと Photonics2012/06/17 21:25

光に関する学問を光学という。英語で光はlightだから、光学を英語でいえばlighticsなどと言ってもよさそうなのだが、どういうわけかopticsだ。長年、特に疑問も持たずにいたが、考えてみれば不思議である。

そもそもopticsと言う言葉は、ギリシア語の“optikos(oの上には ’ がつく)= 見る”が語源らしい。唯物的な現代物理の教育を受けてきた僕達からすれば、「光」を中心とした学問の体系の中に視覚も含まれるのだと思ってしまうが、「見る」ということについて考える学問の中の役者の一人として光が存在する、というのが、先人たちの哲学だったのかもしれない。いってみれば人間中心の学問である。

最近では、先端的な光科学、光技術をphotonicsと呼び、opticsは少し古い感じ、ということになっている。photoという言葉は、light=光を意味するのであるが、実際にはアインシュタインが提唱した光量子=光子(photon)がphotonicsの基になっているのだろう。phonicsが扱うものはレーザとか光ファイバとか、あるいは生体と光の相互作用とか、どちらかといえば光と物質(電子)との相互作用を議論する学問/技術の領域である。そういう意味では、photonicsはopticsよりも唯物的だ。20世紀になってから発生した新しい学問であり、未知の領域も残されているので、photonicsのほうがかっこいいということになっているのだろう。僕だって、自分が関わっているのはphotonicsだと言った方がかっこいいと、ずっと思ってきた。

しかし、よくよく考えてみると、「光」がopticsの主役とはいえ役者の一人であるとすれば、「光と物質の相互作用」だって、opticsの中の一役者ではないか。とすると、opticsとphotonicsは相対するものではなく、opticsという広大な領域の中に、新興勢力としてphotonicsが勃興したのだと考えてもよいのではないかと、ひとり勝手に考えているのである。それにね、いくら物質や現象を理性的に考えるのだと言っても、最後は人間の頭の範疇でそれをどう観測したり解釈したりするのが学問だとすれば、やっぱり人間中心のopticsという体系があって、そのなかに、光と物質の相互作用を議論するphotonicsというエキスパートが存在する、と考えた方が自然のような気がするのだ。

僕の中では、最近では、肩で風切って俺が俺がと自己主張しているphotonicsよりも、そうかそうかと大らかに微笑むopticsのほうがかっこよく思えてきた。世の中、学会などでは、optics系とphotonics系の勢力が互いに意地張りあってなかなか折り合いがつかいない様子も見える。でも、これからは、両者が融合して、より広い観点で未来へ進んで行ってもよいのではないかと、個人的には感じているのである。