58話 ダークエネルギー ― 2011/09/19 21:53
久しぶりの晴れた夜空だ。はくちょう座も教科書のとおりにはばたいている。古代の人たちが作り出したものと同じ星座を見ているのだから、宇宙が膨張しているなんて何だか信じられない気分にもなってくる。
ハッブルが赤方偏移を発見して以来のさまざまな観測結果は、宇宙の膨張を証明してきた。僕が若いころは、宇宙に存在する物質(目に見えない暗黒物質も含む)の重力の影響によって、宇宙の膨張はやがて衰え、いずれは収縮へ向かうのだなどということが有力な学説のひとつとなっていた。しかし、1990年代の後半にローレンス・バークレー研究所とハーバード大学の研究グループがそれぞれ独立におこなった観測結果は驚くべきものであった。宇宙の膨張は加速しているというのである。このことは、重力とは逆の働きをもつ未知のエネルギーの存在を示唆している。この、未知のエネルギーは暗黒(ダーク)エネルギーと呼ばれている。ダークエネルギーの本質はいまのところわかっていない。状況証拠としては、遠くの超新星の観測結果から、宇宙の膨張速度が加速しているということだけである。それ以外の直接的な観測結果は全くないのである。ダークエネルギーが本当に存在するとしたら、時空に関する現代物理学に新たな概念が持ちこまれることになる。僕が生きているうちに物理が新しい次の扉を開く瞬間に立ち会えることになるかもしれないと思うと、わくわくしてしまう。僕自身は何もできないのだけれど、とにかく天才たちの研究の進展を心で応援したい。
それにしても、正体不明なエネルギーを、「正体不明エネルギー」ではなく、「ダークエネルギー」と呼ぶところが、視覚を重視する天文物理屋さんらしいなと感じてしまう。同時に、ダーク(暗黒)という言葉、けっこう便利そうだとも思えてくる。たとえば、妻と言い争いをしたときのことを思い浮かべてみる。たいていの場合、理屈ではこちらが優勢である。そして、正しい論理によって、いったんは激した二人の間の争いは収束に向かうであろうと勝手に予測するのである。しかし、観測結果(これまでの経験)は驚くべきものである。論理が正しければ正しいほど、妻の怒りは加速的に膨張する。そして、最後は、正体不明の力によって僕は屈服することになるのである。このことは、僕が正しいと思っている論理とまったく逆の何ものかが存在していることを示している。もしかしたら、僕にとっては未知の正しい論理を妻が駆使していて、僕は気づかぬうちにそれに動かされているのかもしれない。妻が持つその未知の論理を僕は暗黒論理:ダークロジックと呼ぶことにしよう。ダークエネルギーとともに、ダークロジックの解明もずいぶんと興味深いことである。
ハッブルが赤方偏移を発見して以来のさまざまな観測結果は、宇宙の膨張を証明してきた。僕が若いころは、宇宙に存在する物質(目に見えない暗黒物質も含む)の重力の影響によって、宇宙の膨張はやがて衰え、いずれは収縮へ向かうのだなどということが有力な学説のひとつとなっていた。しかし、1990年代の後半にローレンス・バークレー研究所とハーバード大学の研究グループがそれぞれ独立におこなった観測結果は驚くべきものであった。宇宙の膨張は加速しているというのである。このことは、重力とは逆の働きをもつ未知のエネルギーの存在を示唆している。この、未知のエネルギーは暗黒(ダーク)エネルギーと呼ばれている。ダークエネルギーの本質はいまのところわかっていない。状況証拠としては、遠くの超新星の観測結果から、宇宙の膨張速度が加速しているということだけである。それ以外の直接的な観測結果は全くないのである。ダークエネルギーが本当に存在するとしたら、時空に関する現代物理学に新たな概念が持ちこまれることになる。僕が生きているうちに物理が新しい次の扉を開く瞬間に立ち会えることになるかもしれないと思うと、わくわくしてしまう。僕自身は何もできないのだけれど、とにかく天才たちの研究の進展を心で応援したい。
それにしても、正体不明なエネルギーを、「正体不明エネルギー」ではなく、「ダークエネルギー」と呼ぶところが、視覚を重視する天文物理屋さんらしいなと感じてしまう。同時に、ダーク(暗黒)という言葉、けっこう便利そうだとも思えてくる。たとえば、妻と言い争いをしたときのことを思い浮かべてみる。たいていの場合、理屈ではこちらが優勢である。そして、正しい論理によって、いったんは激した二人の間の争いは収束に向かうであろうと勝手に予測するのである。しかし、観測結果(これまでの経験)は驚くべきものである。論理が正しければ正しいほど、妻の怒りは加速的に膨張する。そして、最後は、正体不明の力によって僕は屈服することになるのである。このことは、僕が正しいと思っている論理とまったく逆の何ものかが存在していることを示している。もしかしたら、僕にとっては未知の正しい論理を妻が駆使していて、僕は気づかぬうちにそれに動かされているのかもしれない。妻が持つその未知の論理を僕は暗黒論理:ダークロジックと呼ぶことにしよう。ダークエネルギーとともに、ダークロジックの解明もずいぶんと興味深いことである。