40話. 飛行機雲 ― 2011/02/27 11:17
八方尾根スキー場のてっぺんで、X(エックス。バツではない)の字の飛行機雲を見た。後立山連峰、五竜岳の上空あたりの青空に浮かぶXは、もちろん偶然の賜物ではあるが、なんだか天からのメッセージのようでもあった。
飛行機雲の発生の原因のひとつは、エンジンから吐き出される排気ガスに含まれる水蒸気によるものである。大気の水分が飽和蒸気圧以下では雲はできないが、排気ガス中の水分が加えられることによって飽和蒸気圧を超え、その領域では水蒸気が凝固する。凝固して粒のサイズが大きくなった水や氷は青から赤にいたる色の領域すべてを散乱するミー散乱体となるので、白く見える雲となる。
もうひとつの原因は、飛行機の周りに生じる大気の乱れによるものだ。大気の乱れの中には急激に気圧が低下する部分があるが、その部分は断熱膨張の原理で温度が下がり、それによって水蒸気が凝結すしやすくなって雲が発生する。小学校か中学校のときにピストンで実験した状況である。断熱膨張による飛行機雲は、気圧がもとに戻ればすぐに消えてしまう。
だから、大空に描かれる飛行機雲は、飛行機が吐き出す水蒸気によるものと考えてよさそうだ。
飛行機雲と言えば、高校の時、友人たちと計画していたスキー旅行が荒天で中止になったとき、浮いたお金で荒井由美の「ひこうき雲」というアルバムを買ったことを思い出す。アルバムのタイトルになる曲「ひこうき雲」の、“空にあこがれて 空をかけていく あの子の命は ひこうき雲”という歌詞が印象的だ。夭折した友達を歌う悲しい内容なのに、なぜだか大空への羨望も感じられる。
もちろん、曇りの日でも大気の条件が合えば飛行機雲は発生するだろうが、雲がバックでは飛行機雲ははっきりとは見えない。青空のキャンバスにこそ、飛行機雲は映えるのだ。だから、飛行機雲は「晴れの世界」の象徴である。さらに、飛行機雲は人間があこがれる「空をかけめぐるもの」の象徴だ。そして、一筋の飛行機雲は、その痕跡を残しつつも、しだいに空に滲み出し、やがて消えていく「儚さ」の象徴でもある。飛行機雲は僕たちにとって詩的な存在なのだ。
しかし、もしも僕たちの住む地域が戦場だとしたらどうだろう。戦闘機や爆撃機、そしてミサイルなどによって空に縦横無尽に張り巡らされた飛行機雲は、恐怖や悲しみをもたらす不吉なものの象徴でしかないだろう。
飛行機雲を見て、空にあこがれたり、人生の儚さを感じたりできる平和に充分感謝しながら、僕は今日も飛行機雲が伸びていくのをまったりと眺めているのだ。
飛行機雲の発生の原因のひとつは、エンジンから吐き出される排気ガスに含まれる水蒸気によるものである。大気の水分が飽和蒸気圧以下では雲はできないが、排気ガス中の水分が加えられることによって飽和蒸気圧を超え、その領域では水蒸気が凝固する。凝固して粒のサイズが大きくなった水や氷は青から赤にいたる色の領域すべてを散乱するミー散乱体となるので、白く見える雲となる。
もうひとつの原因は、飛行機の周りに生じる大気の乱れによるものだ。大気の乱れの中には急激に気圧が低下する部分があるが、その部分は断熱膨張の原理で温度が下がり、それによって水蒸気が凝結すしやすくなって雲が発生する。小学校か中学校のときにピストンで実験した状況である。断熱膨張による飛行機雲は、気圧がもとに戻ればすぐに消えてしまう。
だから、大空に描かれる飛行機雲は、飛行機が吐き出す水蒸気によるものと考えてよさそうだ。
飛行機雲と言えば、高校の時、友人たちと計画していたスキー旅行が荒天で中止になったとき、浮いたお金で荒井由美の「ひこうき雲」というアルバムを買ったことを思い出す。アルバムのタイトルになる曲「ひこうき雲」の、“空にあこがれて 空をかけていく あの子の命は ひこうき雲”という歌詞が印象的だ。夭折した友達を歌う悲しい内容なのに、なぜだか大空への羨望も感じられる。
もちろん、曇りの日でも大気の条件が合えば飛行機雲は発生するだろうが、雲がバックでは飛行機雲ははっきりとは見えない。青空のキャンバスにこそ、飛行機雲は映えるのだ。だから、飛行機雲は「晴れの世界」の象徴である。さらに、飛行機雲は人間があこがれる「空をかけめぐるもの」の象徴だ。そして、一筋の飛行機雲は、その痕跡を残しつつも、しだいに空に滲み出し、やがて消えていく「儚さ」の象徴でもある。飛行機雲は僕たちにとって詩的な存在なのだ。
しかし、もしも僕たちの住む地域が戦場だとしたらどうだろう。戦闘機や爆撃機、そしてミサイルなどによって空に縦横無尽に張り巡らされた飛行機雲は、恐怖や悲しみをもたらす不吉なものの象徴でしかないだろう。
飛行機雲を見て、空にあこがれたり、人生の儚さを感じたりできる平和に充分感謝しながら、僕は今日も飛行機雲が伸びていくのをまったりと眺めているのだ。