33話. 24色のクレヨンと眼の能力2011/01/02 20:39

子供の頃、僕が持っていたクレヨンは12色で、24色を持っていた子がうらやましくて仕方がなかった。実際には、幼い子が良く使う色なんて限られている。大人になれば、無駄に多くの色のクレヨンを持っているよりも、1色のクレヨンで洒落た絵を描けるほうがかっこ良く、そしてモテるだろう。でも、稚拙な絵しか描けない子供にとっては、やっぱり色数が重要なのだ。

どんなにクレヨンの色の数を揃えても、それを見分ける僕たち人間の眼は、赤、緑、青の3色のセンサ(錐体)を持つのみだ。暗い時にはそれらのセンサは動作できず、感度優先のセンサである桿体が働くようになり、色情報は無くなる。いっぽう、鳥や魚、爬虫類などは、赤、緑、青に加え、紫外に感度を持つ錐体も所有している。すなわち、4色のセンサを持っているということだ。空も飛べず、水にも潜れない哺乳類は、恐竜がはびこる時代を生き延びる戦略として夜行を選択した。その結果、視覚も色情報を捨てて感度優先の桿体が主となり、錐体は退化した。その後、恐竜が滅びたことで昼行できるようになり、それに伴って錐体の機能も進化してきたのだが、霊長類まで進化してようやく3つの色のセンサを所有するところまで来たのだ。それ以外の哺乳類はせいぜい2色のセンサしか持っていないため、色覚が弱いらしい。

それにしても、赤、緑、青に加えて紫外も見分けられる持つ眼をもっているとどんな世界が繰り広げられるのだろう。鳥の場合、紫外光の反射でオスとメスを見分けているらしい。オスのほうが紫外光の反射率が高く、そして、その反射強度が強いものがメスにとっては魅力的なオスであるという説もある。実際、多くの鳥でオスのほうが色彩鮮やかであるが、その発色は、紫外を吸収してしまう色素によるものではなく、微細な凹凸構造や積層構造による光の干渉や回折で発色する構造色であり、紫外光も高い効率で反射できるようになっているようだ。孔雀の見事な羽も、見る角度によって色が変化することから、構造色であることがよくわかる。彼らはメスに気に入ってもらうために羽を広げ、時にはダンスを踊ったりするが、実はあれは、紫外線が最も強くメスの眼に当たるように、羽の角度を調整してあたふたしている行動かもしれないなと、素人なりに考えてしまう。
鳥だけではなく、両生類、爬虫類、魚類、昆虫など、4色センサの眼を持つ動物たちには、構造色で着飾ったものが数多い。それに対して、紫外センサが備わっていない我が哺乳類には構造色をもつは見つかっていないそうだ。どうも、4色センサの眼と構造色の間には、なんらかの関係性があるように思えて興味深い。

ところで、もし、紫外光が人間の眼にも見えたとしたら、クレヨンはどのようになっていたのだろうということが気にかかる。まず、紫外光を反射しなければいけない。現状のクレヨンのような色素系では紫外への対応が難しいから、なんらかの構造色系の色材が必要だろう。それが解決されたとして、当然、色の数は多くなるだろう。子供なら、36色くらい持っていないと自慢できないかもしれない。僕のような不精者だと、それを使いこなすのもたいへんだから、今の人間が判別できる色域でちょうどよかったと思うのだ。

人間の眼は、色数、色域では、4色センサの眼を持つ昆虫、魚、爬虫類、両生類、鳥にはかなわない。でも、夕焼けに涙したり、紅葉で感動したりという、色に導かれた心のいとなみは人間だけに備わっているものだ。そんな心の動きと付き合っていくのは数多くの色を使い分けるよりも、ある意味、面倒かもしれない。しかし、どちらが良いかと聞かれたら、色数よりも心のほうを選びたい。だって、体に悪い紫外光を眺めているよりも、夕焼けに心動かされているほうが酒だって美味いに決まっているではないか。