25話. 星は瞬き月は優雅に2010/11/07 18:44

凛とした季節がやってきた。星が鮮やかになるにつれて、その瞬きも増してきたようだ。星の瞬きは、大気の揺らぎによって目に届く星の像が乱されるために起きる。大気が揺らぐということは、空気の密度が変化し、それによって屈折率が変化するということだ。星は遠くにあるので、人間の眼からすれば点にしか見えない。しかし、大気の屈折率が空間的に分布を持ってそれが変化すると、本来、点で見えるはずの星の像が揺れ動いたり、干渉によって像が散ったりする。それを僕たちが肉眼で見ると点滅しているかのような瞬きとして見えるのだ。冬は偏西風が強くなり、大気の揺らぎが強くなるので星の瞬きも激しくなる。冬が好きな僕は、星が瞬き始めるとうきうきとしてくる。

ところで、星は瞬くのに、月はどうして瞬かないのだろうか。月は地球の大気圏のはるかかなたに位置しているから、瞬いてもよいように感じるのだが。

この答えは視直径にあるらしい。視直径とは、見える星の直径を角度で表したものだ。同じ直径の星でも、遠い星ほど小さく見えるが、それは視直径が小さくなったということだ。たとえば、地球から見て太陽に次いで視直径が大きいというペテルギウス。冬の大三角形を作る星のひとつだが、この視直径はだいたい0.034-0.047秒(1秒は1/60分、1分は1/60度)。これに対して、大気揺らぎによって光が乱される量を視直径で表すと、代表値で2-3秒(本州での値)。遠くからくる星の光は大気揺らぎの影響で、本来の視直径以上に動き回るので、それが僕たちの眼には瞬きとして感じるのだ。

一方、月ではどうだろう。月の視直径は33分31秒。大気揺らぎの影響に比べると10倍ほど大きい。もし、月の部分部分を細かく見れば、場所によってばらばらに光が揺らいでいることだろう。望遠鏡を使えばそれは一目瞭然だ。ただ、人間の眼の角度分解能は、視力が1.0の人で1秒。これも明るい場所での話で、暗い夜空ともなれば、分解能も落ちるはずだ。大気揺らぎの視直径2-3秒とほぼ同等かそれ以下に落ちるかもしれない。さらに、月の細かい部分を観測すれば光が揺らいでいるのだが、その周りの別の部分の光のゆらぎとランダムに混ざりあい、平均化されることによって、瞬きを感じなくなるのではないかと推測できる。人間の眼の分解能がもっと高ければ、もしかしたら月を描くときの表現が、今とは異なり、小さな点滅物の集合体として描かれていたのかもしれない。

幸いにも、人間の眼がほどほどの分解能を持っているおかげで、僕たちは、星が瞬き月が静かに佇む優雅な夜空を味わうことができるのだ。そんな自然の摂理に感謝しようというのが、今夜の酩酊の言い訳だ。