68話. 電灯が夢だった頃2012/01/09 18:12

ジュールベルヌが1870年に発表した「海底2万里」では、潜水艦ノーチラス号の動力は電化されていて、もちろん照明も電灯となっている。スワンが真空炭素電球を作り上げたのが1879年、エジソンが電球の会社を作ったのが1881年だから、それよりも10年ほど早く、ベルヌは潜水艦に電灯を装備したのだ。SFだから何でもありなのである。

小説が発表された当時の人たちは、電灯など見たことは無いのであるが、ベルヌの小説を読んでどのような照明を想像したのだろうか。ほの暗い灯油ランプを想像したのか、あるいはガス灯のようなものを想像したのか。それとも、なんだかよくわからないけれども夢のように明るい光を放つものを想像したのだろうか。もしかしたら虹色に輝く光源を想像した人もいるだろうし、ダイヤモンドのような輝きを放つ光源を想像した人もいるだろう。太陽の輝きを想像した人もいるかもしれない。

これに対して、いま、僕らがこの小説を読むと、電灯として白熱電球や蛍光灯や、場合によってはLEDランプなどを思い浮かべるのであるが、どれも現実のものばかりだ。別に、電灯の無い時代に暮らしたかったとは思わないけれども、電灯を知らない人間としてベルヌの小説を読んで電灯というものから放たれる夢の光を想像してみたかった・・・なんていうのは現代人の贅沢か。