65話. 月食 赤いルーナ2011/12/11 21:36

昨日は見事な皆既月食に出会うことができた。冬の玲瓏な夜空に浮かぶ赤黒い月は、「妖しい」という言葉を体で表現するヒロインのようだ。

地球の影に入っても月が赤いのは、地球大気によって青い光は散乱されてどこかに発散してしまい、残った赤い光が大気の屈折によって地球の裏側まで曲がり込み、その光を月が反射していのが理由であることは、良く知られていることだ。理屈でわかっていることなのだが、宇宙スケールでの壮大な光学実験を見ているようでわくわくしてしまう。

ところで、半影のとき、すなわち、皆既日食に入る前の部分食のときには、明るい部分だけが三日月のように見え、赤い影の部分は見えている気がしない。しかし、本影、すなわち全食のときになると、まるで隠れていたものが現われてくるように赤い月が見えてくる。これは、なかなか興味深いことである。半影のときにだって、見えていない部分は赤く光っているはずなのだが・・・

ウェーバー則によれば、バックグラウンドの明るさに対して2%以下の明るさの差は人間には認知できなくなるという。月を見ているときには、バックグラウンドが明るいわけではないのだが、似たような原理が働いているのではないかと考えてしまう。部分食のときの月の明るい部分を光の最大値とすると、影に入っている部分と夜空の明るさ(夜空も真っ暗なわけではなく、町の明かりなどによって少しは光っているのだ)の差は、最大値に対して2%以下になっているのではないか。月が完全に地球の影に入ってしまうと、太陽光を直接反射する明るい部分が無くなり、地球が月に向かって集める赤い光が最も明るくなる。そうすると、今度は夜空との明るさの差の割合がぐっと増す。その結果、人間は、月食の影の部分と夜空の明るさの差を見分けられるようになるだろう。だから、全食になるときに、赤い月が忽然と現れたような気になってしまうのではないかと想像するのである。

月食は、もちろん、すばらしい天体ショーであるのだけれども、光に関しても、いくつかのことを考えさせてくれる奥が深いイベントなのだ。

さて、昨夜は、このイベントを最後まで楽しむつもりであったのに、全食の真最中、寒いのでいったん布団に入って暖をとっていたら意識を失い、気が付いたらすでに翌朝となっていた。すこしワインを飲みすぎたのだろうか。いやいや、赤いルーナの魔性のせい、ということにしておこう。